ルービックキューブと問題解決
あまり大きな声では言えないがこの一週間家にかえると仕事に身が入らなかった。いけいないと思いながらついついルービックキューブにのめり込んでしまったのだ。
Wikipediaによると
ルービックキューブ (Rubik's Cube)
はハンガリーの建築学者エルノー・ルービックの考案した立方体パズル。各面は3_3=9個の色の付いた正方形で構成されている、、中略、、遊び方は、キューブを回して色をバラバラに崩し、それを再度揃えるだけというシンプルなもの。シンプルなだけに最初は誰でもすぐに完成すると思いがちであるが、一旦揃えた場所を崩さずに他の場所を揃える方法に気付かないといつまで経っても完成しない。日本では1980年に大ブームとなり、いかに速く6面を揃えるかを競う大会なども催された。
そう私も1980年台に大学生の頃にはまってスピードを競っていたものだった。そのころは3分とかからなかった(と思う)。娘が景品でもらってきた時も自信満々ですぐにできると豪語した。
ところがいざはじめると全く解決方法の記憶がない。やみくもにまわしても揃わないことはよく知っている。かなり焦った。しかしできると言った手前証拠をみせないと父親の威厳が保てない。その場はおさめて密かに解決に取り組んだ。
しかしどうにも過去の解決方法が思い浮かばないのでもう一度原点に帰って解くことにした。おそらく大学生のころはくるくるまわしているうちに法則に気がついてできるようになったのだろう。しかし今は上一面をあわせるのがやっと。どうあがいてもなんとなくできるというレベルではない。やはりこの20数年で相当頭が錆び付いたのだろう。とすれば頭の善し悪しに関係なくこの問題を解決する方法があるのではないか。ツルカメ算は難解だがx,yをつかった方程式なら容易に解けるように何か一般的な解決方法がないかと考えた。
見方をかえると、もし私のような数学的な才能が全くない凡人がこのキューブの(時間はかかっても確実な)解決方策をみつけることは、科学的な問題解決の一般的な方法論を導くことにほかならないようにも思える。それは天才的なひらめきではなく、誰もがある法則に従って分解していけば必ず解に到達するような、すなわちデカルトの提唱した演繹法に匹敵するものではないか?もしかしたらごくごく普通レベルの頭でこのキューブを解くことができれば(いや解く筋道を示せれば)ながらく求めていた“科学問題解決の基本原理”に到達することができるのではないか?そう思いいたるともうどうしようもなく、科研費の申請や論文の校正が溜まっているにも関わらず取り組まずにはいられなかった。といってもラボで仕事を終えて家に帰ってからの毎晩1時間程度である(本当はもう少し長く時間をかけてしまったかもしれない)。
さて私のとった方法はきわめて単純である。基本的な操作でそれぞれの駒の動きを書き出してそれを組み合わせて解決する、というものである。自分で把握できるキューブのまわしかたには自ずと限界がある。本当はさらのキューブでスタートすればかなり簡単なのだがすでにぐちゃぐちゃになったキューブなのでノートに書き出して駒の動きをひとつひとつ把握する。例えばある一面を90度時計回りに回転させ、そのあと中央の列をさらに時計回りに90度、それからもとに戻すように-90度回転させるとどうなるか、そういったことを書きとめる。すると自分で把握できる手順でどの駒がどう動くのかが法則として書き出すことができる(手順)。(写真はその一部)。この手順を6つくらい用意することができた。
この方法はある駒をどの位置に移動させるという目的で手順を考えるのではなく、こういう手順ならこう動く、という基本的な原則をともかく単に書き出すものなので、ひらめきなどとは無縁のものでごく単純なものである。もちろん一回の手順が何回キューブを回すのか(何ステップか)、駒はどの程度動くのか(頭で把握できる数でないと無理)、および何通りの手順を記載できるかは重要であるが私の場合はあまり長くては記憶できないので3から8ステップ以下のものを6つほどしか用意できなかった。1手順で動く駒は3ないし4個である。
ともかく手順を用意できたので実際に解くのはすぐにできると思った。はじめは上から1段目、2段目とあわせていってわりとスムーズにコンスタントに2段目まではあわせられるようになった。すぐに解決すると思ったが、それでは3段目(一番下の段)が無茶苦茶でどうしても揃わなかった。どうしても駄目なので子供が面のシールをはがして別の面に張り替えたのではないかと疑ったくらいだ。特に端の4個がどうしてもあわない。
やはり手順をつかう順番、つまり解決の戦略が必要なようだ。次に上からあわせるのをやめて端の8隅をまずあわせることにした。記載した手順のうち2つが8隅を動かすことがわかっていたのでこの手順をいろいろな面で試してまず端の8個をあわせた。8隅は一旦あわせてしまえば他の手順では絶対に移動することはない。そこで残りの中央の駒を残りの手順であわせいくことにした。これもはじめは上2段をあわせてから3段目をあわせようとしたが持っている手順ではうまくいかない。そこでまず1段目をあわせてのこりの2段目と3段目の駒の動きを予想して手順を組み合わせることにした。書くのは簡単だがこの方法を見極めるのに3、4日かかった。ひとつの手順で駒は3ないし4動く。動かしたい駒は普通は1つか2つ。あとのことまでなかなか考えられない。しかしやはりそこは慣れ。最後は3つの駒の動きを想像できるようになり解決した。ウーン、だれもが才能や先入観なしに解決する方法を示したかったのだが最後は慣れというどうにも科学的に説明できない要素を入れることになってしまった。しかしこの方法は時間はかかるが誰もが必ず解にたどりつけそうな気がする。少なくとも相当脳が老化している私でもたどりつくことができた。
しかし、この方法は手順だけでは駄目で解決の戦略はある程度必要なことがわかる。まず8隅をとか、2段目をあわせることを放棄するとか、ある程度の方針は試行錯誤で必要なようだ。これも医学生物学研究と同じではないか。研究課題は実験手法や手技だけでは解決できないのだ。やはり手法を使いこなすstrategyが重要だろう。この二つは不可分なものかもしれない。戦略だけで方法が確立できていなければ解決できないし、方法があっても戦略がなければ解決できない。方法はそれだけでは生み出すことは難しいし戦略も手持ちの手法のことが把握できていなければたてられない。逆に必要に迫られて方法が産み出されることも多々ある。
ルービックキューブはこのように問題解決の方法を学ぶ非常によい課題と言える。しかし学生にはすすめられない。そんな暇があったら実験しなさい。目の前の課題から学んだ方がはるかに生産的なのだ。
後記)
AFPなどが伝えるところによると、20世紀後半(1980年代)に大ヒットした色あわせの立体パズル「ルービックキューブ」の早解き大会が10月5日から7日までの間、ハンガリーの首都ブダペストで開催され、通常サイズの「3×3×3」サイズの部門で北海道釧路市の中島悠氏(16歳、釧路工業高等専門学校2年)が12秒46の平均タイムを出して優勝した。彼は600以上の手順を記憶しているという。この段階になると見た瞬間に行程がぱっと頭にうかぶらしい。しかし彼も最初は私と同じく解決に1週間を要したそうだ。