質の高い論文を出すには
私がラボを移そうと考えた理由はいくつかある。
ひとつ大きな理由は現状では研究費がとれない、ということ。中央に出れば少しはとれるかもしれないという期待があった。
また移ることで新しいテーマに挑戦しなければ研究者としては生き残れないかもしれないという危機感があった。
それくらい状況は深刻で苦しい。私の実力がそれまでと言われればそうなのだが、まだ挽回の余地はあると思う。
なぜ現状では研究費がとれないか。一番の原因は論文のインパクトが下がっていることにある。早い話が昨年も一昨年もラボ独自のNatreu,Cell姉妹紙の論文がでていない。かろうじて共同研究で出したのみ。もちろん相応の貢献はしているがコレスポではない。それでも一昨年はJEMやGastroがコレスポで4報もあったが昨年はさらに落ち込みが激しかった。質が落ちているとは思わないが、競争に負けている。また時間がかかりすぎて新鮮味が薄れランクがどんどん落ちている。SOCS3-KO樹状細胞もSOCS1-Th17も決して悪い内容ではない。むしろ先駆的な内容を含んでいた。しかし投稿前にTGFbがFoxp3の誘導に重要であることは出され,SOCS1もオチがIFNgでは最早現在のレベルではインパクトに欠けた。Foxp3のプロモーターもIL4も出された。投資した額にみあった成果がvisibleな論文としてでていなければ獲得できる研究費が減るのは当然であろう。大型予算がないためにマウスを自在に供給できなくなったことも大きい。君たちが卒業して学位をとるだけならG2CやIIやBBRCでかまわない。ただそれでいいと思わないで欲しい。必ずJBC,JI、MCBクラス以上の論文を出すと言う気持ちでいて欲しい。まだ出さなければ卒業はできても留学や研究者としての自立は困難だ。私も研究を続けられない。さらに昨今の周囲のレベルを考えると年に一報は姉妹紙クラスに出さなければ今程度のラボを維持していくことは困難だ。
ではハイランクの論文を出すにはどうすればよいか。第一に斬新なノイエスが絶対的に必要だ。競争の激しい分野では特に重要でかつ早く出さないといけない。第二にさらにそれに加えてしっかりとした解析がなされていること。メカニズムであればover-expressionだけでは駄目でsiRNAやKO細胞が必要。そのメカニズムも新しく斬新でなければならない。また個体の場合は単純なKOの解析では不十分で他のマウスとの掛け合わせや抗体実験、トランスファーの実験が必要。しっかりとした論理構成であればreviewerも落とせない。しかしこれらは金も時間もかかる。研究費が少ない状況でいくつもの掛け合わせは困難だしsiRNAをどんどんやるわけにもいかない。そうなるとやはり効率よくやることも大事だし、アイデアや知見の斬新さに活路を見出すことも重要となる。それをよく意識して実験をして欲しい。ただやみくもにやってはいけない。同じ実験を何度もくりかえさない。できるだけ最小試行回数で正確なデータをだす。これまで如何に無駄な実験、中途半端で終わった実験が多かったか。これからはそんな余裕は無い。第三に、やはりこれはこれ以上やっても投資対効果が見込めないと判断したときはさっさと小さい論文にしてしまうこともあり得る。例えばSOCS1のようなかなり調べ尽くされたマウスの解析を出す時はどうしても多くの掛け合わせ、多くの実験が要求される。それが費用的にも時間的にも無理ならさっさと小さく出すしかない。逆に言えば新しい話題で勝負をかけたほうがより小さい費用や労力でよい論文になることが多い。これはすでに多くの検証がなされている。目新しさも重要なファクターなのだ。だからSOCS1をやらないと言う訳ではなく、新しい価値を加えられるかが重要ということ。例えばSOCS1でIFNgではもはやどうしようもない。だが違うシグナルやサイトカイン系なら価値が出る。だから例えばTGFbとの関係で新規の分子やメカニズムを提唱したい。もしそれが示せれば一気に価値が高くなる。どういうデータが加われば価値があがるかを私は常々言っているのでよくよく理解して欲しい。
まあ悲壮になってもはじまらない。情熱をもって研究するためには対象が面白くてやる価値が感じられないといけない。本来はそれを一番重視しなければならないはず。
いやいや勝てる芽はいくつもある。古賀さんの新規TLR抑制機構も多くの人が興味をもってくれるし、Sprouty4の血管に関する表現型も驚くべきものだ。FLNもRaftlinも簑田君の新規分子もTRAF6と抗ウイルス作用もこれから幾らでも花が咲くはずだ。十分完成度を上げ、かつ他に競争で負けないようにし、そのうえお金をかけず、、、なかなか難しいことだがそれぞれのやっていることの価値をよく理解して頑張ってほしい。サイエンスはゴールのない競争だ。オリジナリィテイーを大事にすれば必ず挽回できる。
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